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購買後のエクスペリエンス


商品が利用される「場」の理解

まず、購買後のエクスペリエンスについて整理をしておきます。なぜならこれこそが商品の最終到着地点であり、花はここで散り、実はここで結ぶからです。この地点で顧客が得る利益や満足をシミュレートし、時間を逆行させて、それを購買時のエクスペリエンスで再現し、仮想体験させることが求められます。購買後のエクスペリエンスを整理するには、顧客の人生をシミュレートし、それを適切なレベルに裁断することが必要となります。本稿で繰り返し述べてきたように、同じ人間でもケース、つまり時と場合によってその行動目的や行動特性は異なり、商品やその利用もそれに従って変化します。ここで重要となるのは「ケース」をどのように切り取るかです。

ここではまず、個人が持つ基本的な性質に着目します。素地としてその個人が持つ側面に注目することにより、決定される嗜好性や、サイクリックな行動パターンを理解することが可能です。このような性質には、「生活スタイル」と名前を付けます。もちろんこのような性質も、成長やおかれた環境に伴って変化する性質のものですが、この変化に対する考え方は後に触れることにします。

次に、人生の各局面において、社会的な役割を担う際に見受けられる性質 -これを「生活ステージ」と名付けることにします- に着目します。父親の仮面、小学生の仮面、新入社員の仮面といった社会における位置付けは、その人を仮面に即した行動パターン、もしくは自らがつけた仮面に対する否定的な行動パターン(逃避や反発等)へと駆り立てます。

そして最後は、生活の中で時折起こる、半日常的な出来事に着目します。これを「生活シーン」と名付けます。例えば友人の結婚式や、突然の病気、海外旅行といったシーンにサイクリックな性質はなく、また嗜好性や担っている仮面が影響を与えることはあっても、出来事そのものが持つ決定的な影響力を上回るものではありません。

1. 生活スタイル 生活スタイルは、その人の置かれてきた環境や、デモグラフィック属性、育ってきた歴史に大きく依存します。これに基づいて個人が人生において実践すべき行動を規定し、守るべきルールを規定します。そしてこのルールが日常生活に影響を与え、購買行動にも影響を与えることになります。これには経験や法律、社会通念上から絶対にやってはいけないことから、選択可能な範囲において守ろうとする程度のもの、または特に意思が無くとも習慣になってしまっているものまで様々です。しかしながらこれを理解することができれば、その範疇から外れる購買活動が発生することはないため、無駄なマーケティングアプローチを実施する必要はなくなります。また、逆にこの範疇の中に自社の商品を位置づけることができれば、自然に商品購入を促すことが可能となります。

このような生活スタイルを理解する上で、2つの重要なポイントがあります。1つは、購買行動に反映される好き/嫌いです。金融商品を選ぶ際にリスク/リターンの高い商品を選択する傾向にあるか、洋服を選ぶ際に暖色を好むか/寒色を好むか、食品を選ぶ際にヘルシーさや安全性を第一に考慮するか、それとも美味であることを基準に選択するか、日常消費財を選ぶ際に、プライベートブランドの安価な商品を選ぶか、それとも名の知れたナショナルブランドの商品を選ぶか…等々、このような嗜好性は様々な購買行動の際に頭をもたげ、購買行動を左右します。このようなスタイルを認識することができれば、購買行動において訴求するべきポイントが明らかになります。これは顧客のセグメンテーションにも活用可能な考え方であり、商品の価値訴求においても検討すべき考え方です。

そしてもう 1つのポイントは、サイクルに関連したものです。多くの人は朝起きて、毎日大体同じような生活を過ごし、夜には寝ます。もちろんお昼に食べるメニューが違ったり、仕事場や学校でいつもとちょっと違うことが起こったり、帰りの電車がいつもより遅くなったりするかもしれませんが、大枠において人間は慣性の中を生き、それによって生活のコスト、特に考えるコストを下げ、毎日の生活を楽にしています。同様のサイクルは 1週間という単位でも発生し、1年間という単位でも発生します。春になれば衣替えを行い、冬には年賀状を送るものです。このようなサイクルの中に自社の商品を位置づけることがその目的となりますが、そのためには、どのようにサイクルを切り取り、シミュレートするかが鍵となります。

例えば、朝起きてからの 2時間だけでも、様々な商品が関連しています。起きたらテレビをつけるかラジオをつけるか、朝食に食すのは何か(それとも食べない?)、朝飲むのはコーヒーか牛乳かそれとも水か、お風呂に入るかシャワーを浴びるか等、これらを考えるだけでも数多くの商品が関わり、数多くの商品が競合するはずです。またこの背後に存在する顧客の心理を考えることにより、様々な生活上のニーズを想起することが可能であり、商品開発やマーケティングメッセージ、そしてアピールすべき魅力を考える上での参考になります。もちろん自社商品の利用を見込めないサイクルに注目しても意味がありません。自社商品が利用されるサイクルを類推し、その中における自社商品の位置づけを定義できる場合、そのサイクルは参考にできるはずです。

2. 生活ステージ 生活ステージは、画一的な一生を想定する前提において、年齢や性別で切り取ることができるものです。学生から会社員、そして定年を迎えた悠々自適の老後へ、独身生活から結婚生活へ、そして子供が生まれ、成長し(教育費がかさみ)、そしてそのうちに自立していきます。しかしながら裕福になった日本のような先進国において、人は多様性を求めるようになり、社会もその多様性を許容するようになります。離婚、晩婚、フリーター、一生独立しない子供…生活ステージのそれぞれを年齢や性別だけで括りきることは難しくなってきていると言えます。

しかしながらこのようなステージごとに必要とされる商品や、ステージエントリーのタイミングで必要とされる商品が存在し、これらステージを認識し、ビジネスチャンスとして捉えることは非常に重要となります。ランドセルが必要になるのは子供が小学校に入るタイミングであり、住宅ローンが必要になるのは、住宅を手に入れる手前のタイミングです。また、一般に会社勤めをするようになれば、スーツは数着必要であり、合わせて革靴やネクタイも必要になります。

また、この際に抱くようになる心理状態も注目するべきポイントです。主婦のメンタリティを 1つとっても様々であるはずです。子供がいるか/いないか、いるとしたら何人いて各々何歳なのか、収入はどの程度か(生活するのがやっとなのか、家政婦を雇えるほどに裕福なのか)等、様々なファクターが時間と金額の自由度を規定します。主婦という生活ステージに存在する顧客のメンタリティをこのような尺度で捉えれば、それぞれの顧客は、家計のやりくりしか念頭にない主婦と、家計の存在そのものを考える必要の無い主婦(有閑マダムと名付けた方が適切でしょうか)の間に、分散配置されるはずです。

このような生活ステージがもたらすメンタリティは、そのステージにおける役割に基づいたものです。父親としての「仮面」、新入社員としての「仮面」は、それぞれのステージにおいて営まれる集団生活に、どのように位置づけられるかを規定しており、この位置づけを良くも悪くも意識します。例えば従順に与えられた役割を発揮することも、役割を発揮し切れずにフラストレーションを覚えることも、与えられた役割に対して逃避や反発的な行動をとることも、全ては「仮面」ゆえです。子供を乗せてドライブに行くためにファミリーワゴンに乗り換えることも、マイホームパパになっていく自分を認めたくないが故にスポーツカーを手放さないことも、父親の仮面を上手に演じたり、その役柄に自分がフィットしていないことを感じたりするが故の行動なのです。

そういった意味において、まさに生活ステージとは「舞台」であり、その舞台の上で実際の生活を演じるのが配役を与えられた演者であり、それこそがここで議論の対象としている顧客なのです。もちろん、当の本人に「演じている」という認識はないと思いますが、このようなステージと、ステージの上で生活を演じるにあたって必要となるエトセトラは、生活スタイル同様、購買後のエクスペリエンスを理解する上で重要なひとくくりとなります。

3. 生活シーン 購買後のエクスペリエンスとして考慮すべき最後の「ケース」は、「生活シーン」と呼ぶものです。人は幾つかの「生活ステージ」を移行しながら、一生を過ごし、そして終えていきます。そしてそれぞれの生活ステージの中で「生活スタイル」を構築し、このスタイルを維持、変容させていきます。学生の生活ステージにおいては深夜のバイトで昼夜逆転した生活スタイルだった方も、卒業して会社員としての生活ステージに移行し、朝早く起きて会社に向かう生活スタイルへと変容します。

このような、ある種単調で定型的なパターンやサイクリックな行動様式に対して、彩りやアクセントを加えるのが「生活シーン」です。この状態を別の言葉で位置づけるのであれば、それは「非日常」、あるいは「半日常」ということになるでしょう。つまり日常的な状態を多少なりとも逸脱し、非定期的に起こる出来事を捉えたのが「生活シーン」です。ここで起こる彩りやアクセントは、その人が意図的に作り出した、好ましいものばかりでなく、本人にとっても突発的に起こるものも含まれます。

海外旅行に行く、たまには美味しいものを食べようと外食するといった本人駆動の、本人にとって都合の良い生活シーンもありますが、突然の病気や、地震災害のような本人にとって好ましくない生活シーンも考えられます。もちろん突発的であっても、兄弟や親類の結婚式のような好ましいシーンもときに発生します。これらの生活シーンは不定期に発生し、それゆえ「非日常」、「半日常」なのですが、その頻度に応じて、この出来事発生に備えて、そしてその頻度と不回避性に応じて準備をしておきます。

海外旅行用のスーツケース、お葬式用の黒いタイ、損害保険や災害保険等、このような生活シーンにおいて利用される商品は、日常生活において利用されるものではありませんが、有事の際にはないと困るものであり、何事も無い日常生活の中でこのような商品を購買してもらうためには、購買後に発生する有事のエクスペリエンスを描き出し、それを購買前のタイミングに映し出し、顧客に備えを促すことが必要となります。

以上「生活スタイル」、「生活ステージ」、「生活シーン」の 3つに分け、購買後のエクスペリエンスを整理しました。これらはそれぞれ、お互いに影響を与え合う関係にあり、きれいに分けられるものではありません。それぞれの顧客はどのような「ケース」を持ち、どのような「ケース」を持たないのかを特定することができれば、必要となる商品、その背後に求められる目的やニーズの想定は容易になります。翻って購買時のタイミングにおいて、この「購買後のエクスペリエンス」のリプレイ、またはプレビューを見せることができれば、顧客に対してその商品の必然性を理解させ、自らの生活の中における商品の位置づけを想起させることが可能となります。