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購買時のエクスペリエンス - 1


購買時におけるエクスペリエンスも、購買に影響を与える大きな要素の 1つであり、商品の置かれた環境として考慮すべきポイントの 1つです。シンプルに考えれば、顧客が持つ購入決定基準、そして目的に対して忠実にアピールをすることが購買時の体験を演出する際における最も大事なポイントです。さらにこのとき、購買後のエクスペリエンスを逆算して顧客の前で再現し、仮想体験させることができれば、そしてそれが顧客の求め、想像していた購入決定基準に合致/凌駕していれば、購買時の体験を現実感の高いものにすることが可能となります。これは企業が直面するビジネス機会への対応力を強化することへとつながります。

しかしながら顧客の持つ目的はそれぞれに濃度が異なり、また揮発性の高いものです。何ヶ月も検討を重ね、強固に構築された購入決定基準を元に購入される商品も存在すれば、商品を見てから目的を思いついて即決購入される商品も存在します。また事前に設定した購入決定基準が実際の購入段階において「揮発」してしまい、その場で見た商品へと心が移ろいゆくこともあります。

価格帯の比較的低い商品や、そしてもたらされる利益が換金可能なものではなく、より心理的な満足を求める傾向にある商品の場合、人間は論理よりも感性や人間の基本特性に従いやすい傾向にあり、結果、当初の購入決定基準に準拠しない可能性が高まります。経済的なインパクトが小さいほど、論理的な決断に必要な、情報分析や意思決定に伴うコスト(手間や時間、実際の金額)が相対的に大きくなり、そのコスト負担を厭うからです。また心理的な満足を求める場合には論理的な決断そのものを必要としていません。単純に好きか嫌いかの中で判断するからです。

逆に商品の目的が利益性や経済性にまつわるものである場合、そして特に価格帯が高い場合においては、消費者は論理的な判断に基づき、経済性を充分に理解した上で購入するよう心がけます。その理由は、経済的なインパクトが大きいとき、人間は論理的な決断によって購入時の選択失敗リスクを回避する傾向にあるからです。ここでは十二分に購入決定基準が考慮され、そして厳格に適用されます。

これら顧客の持つ行動傾向、購買に対する姿勢は、販売および購入の「場」において、充分に考慮されなければなりません。ここで「場」とは、チャネルやマーケティングメッセージが混在し、それぞれが相まって商品と顧客を取り囲む環境を意味します。ここで整理するべきは「場」の作り方、つまり顧客へのアプローチ方法や演出の仕方であり、そこで顧客が引き起こす心理的背景や、それに伴って導き出される行動特性です。もちろん基本となるのは購入決定基準ですが、ここでの「場」の作り方(演出の仕方)によって、購入決定基準に従順で購入のしやすい「場」、または自社に都合の良い購入決定基準への変容や、自社に都合の悪い購入決定基準の揮発をもたらす「場」が生まれることになります。以降、それぞれのアプローチについての概観を行ないます。

論理性に対するアプローチ

利益性や経済性に帰結する商品の場合、論理的なアプローチが必要となります。もちろん後述する感性に対するアプローチや、人間の基本特性に対するアプローチを併用することも利用可能な手段の 1つですが、その本質はやはり論理性にあります。このような商品の場合、顧客は熟慮の上、納得して購入することを求めるからです。

1. 証明する 利益、そして経済性にまつわる商品であれば、それを金額や時間等に換算し、定量化することが可能です。冷蔵庫の消費エネルギー効率改善度や、新たな通話料金プランを展開するときの「お得度合い」の表現は、これらを明確にすることにより、消費者が獲得できる便益に対する証明を目的としたものです。また、便益をもたらす構造を紹介することも、証明の一部です。目的を実現する要素として商品の機能や作用、事実や属性といった情報がアピールされることによって、それらは証明情報として扱われます。逆にそれがなければ脈絡の無い、単なる機能紹介に終わってしまいます。また、実証して見せることも証明の一部となります。

後述する感性に対するアプローチにおいてもこれは有効ですが、実際にその作用やもたらされる便益を実証することも、論理的な納得を顧客に対してもたらします。テレビショッピングで洗剤の機能や効用を紹介するために、換気扇やカーペットを汚し、洗剤できれいに洗い落とすシーンを良くご覧になると思います。これが証明のために実施されていることはいうまでもありません。

2. 啓蒙する 証明のアプローチは、それがもたらす便益を顧客に納得してもらうためのアプローチです。しかしながらそれは顧客に対して、その購買必要性を納得してもらうためのアプローチではありません。購買必要性を納得してもらうためには、何故その商品が必要なのかを訴えるための情報が必要です。目的を浮かび上がらせるための情報 - これが啓蒙と呼ばれるものです。汎用的で多目的な商品に関しては、特にこれが必要になります。消費者がその必要性を想像できない場合、まずはどんなケースでそれが必要になるのかを理解してもらう必要があるからです。また、これによって潜在的に顧客が保持しているニーズを覚醒させることもその目的です。

例えば、多くのスーパーマーケットでレシピカードを置いています。これは何故それぞれの食材が必要となっているのかを訴えるためのものであり、今晩のダイニングテーブルで、それぞれの食材をどのように位置づけることが可能かを示すものです。証券会社がニュースレターを発行して、投資情報に関する紹介をするのは、取引促進と、取引倫理上の両面から情報を提供し、投資取引が活発かつ健全になされることを意図するものです。

3. 顧客のペースに合わせる 論理的な理解を必要とするとき、その理解/納得は顧客の頭脳の中でなされます。従って、その理解/納得は顧客それぞれの頭の回転、過去に蓄積してきた知識ベースに依存し、基本的にそのペースとベースは千差万別であると考えるべきです。投下する金額が大きく、意思決定において色々と考えざるを得ない住居や自動車の購入、様々な資金計画のシミュレーションをもとに検討しなければならない金融商品の購入において、顧客は情報(啓蒙情報、証明情報)をいったん持って帰り、検討を重ね、さらに不明な部分は企業に対して問い合わせ、さらに検討して意思決定を行ないます。このようなプロセスをどの程度のスピードで、どの程度のやり取りを以って決定するかは千差万別ですが、それを考慮に入れ、顧客が理解/納得した上で購入してもらわなければなりません。

このような顧客のペースを考慮する際に、元々の商品やサービスが複雑であるがゆえ、啓蒙情報、証明情報が分かりやすく、簡潔にまとめられていることは重要になります。もちろん分かり易くしたいがために、本来伝えるべき情報や複雑な情報構造がスポイルされ、簡素化されてしまっては本末転倒です。この点に気を付けつつ、できるだけ分かり易い形でカタログ、インターネット、ポスター等の各チャネル媒体に記述されなければなりません。

そして千差万別のペースに対応していくために、アプローチ上の方策として 2つの方策が考えられます。1つは営業担当者、コールセンター、支店窓口、チャットサービスのような人的資源の柔軟性を活用したチャネルを利用する方法です。それぞれの顧客のペースとベースに合わせて、必要な情報を提供したり、相談にのったり、背景にあるニーズの本質を探り当てたり、時には顧客の側に熟慮のための時間を与えたりすることができれば、顧客は充分な理解と納得に基づいて購入へと進むことができます。しかしながらこれらの人的資源に基づいたチャネルを利用する場合、チャネルコストの本質は人件費であり、他のチャネルに比べてコスト高である点は考慮されなければなりません。従って、このコスト高を克服できる利益をもたらす商品やサービス、もしくは顧客を選定し、これらの対象に対してこのチャネルを適用する必要があります。

もう 1つの手法は、逆にこのようなコストや手間を顧客の側に任せる方法です。このようなサービス形態を一般にセルフサービスと呼びます。これは、人的チャネルがもたらす対人的プレッシャーを感じずに検討を重ねたり、熟考をしたり、シミュレーションをすることを好む人に対しては最適なアプローチ方法であり、企業にとっても経済的なアプローチの方法です。このようなセルフサービスチャネルの場合に重要となるのが、ナビゲーションやガイダンス、そして双方向性です。インターネット、もしくは同じテクノロジーを利用している、小売店の店頭に並ぶキオスク端末等はこれらのアプローチに適したチャネルと言えます。

ナビゲーションとガイダンスは、分かり易く啓蒙情報、証明情報にアクセスする上で重要になります。また、双方向性は、顧客からのインプットに応じて必要な情報を提供することによって、顧客にシミュレーション環境を提供します。このような「場」を提供し、顧客に利用してもらうことによって、顧客は自分の理解と納得のレベルに応じて検討を進めることが可能となります。これは特に論理的な意思決定を求める商品やサービスの購入において特に重要です。

感性に対するアプローチ

感性に対するアプローチにおいて正解を求めることは、非常に難しいものです。購買後のエクスペリエンスを想定し、それに基づいてあるクリエイティブデザインや、ある「場」のデザインを試みたとき、正解は 1つではなく、およそ無限大に近い選択肢が存在するはずです。数式結果のように単一の正解を得られるものでもなく、かといって何でも良いというものでもありません。そしてこれはプロダクトデザインにおいても当てはまります。プロダクトデザインA とデザインB の違いは、対象である顧客群に投げかけることによって、どちらが好ましいかを理解することはできます。アンケートをとり、数多くのサンプルを取得すればどちらの人気が高いかは分かります。

しかしながらそれはある顧客群に投げかけた結果、ポピュラリティを得たのが(例えば)A であったという結果論でしかありません。マスマーケティングにおいて A もしくは B の選択をしなければならない場合においては意味を持ちますが、個別化されたマーケティングの場を演出する場合には、確率上の正しさしかもたらしません。それは数多くのサンプルから 1つ抜き出したときの答えが、A である確率が高いというだけのことです。結局販売するときには、特定の「誰か」に対してそれを実施する必要があり、抜き出したサンプルの 1つが B を希望する可能性は否めません。そうは言っても、やはり相対的に確度が高く、現実に採用されている方法は、背後に存在する目的や購入決定基準を整理し、それらを、審美に対して鍛錬を重ねてきたプロのデザイナー(メッセージであればコピーライター)に伝えてデザインを作成させ、可能であればアンケートのようなテストマーケティングを経る方法です。

仮想チャネルや、個別化可能なチャネルにおいては、過去の顧客が持つ感性上の嗜好性を参考に個別化することもアプローチの 1つです。また、プロダクトデザインに対する感性においては、顧客に対してバリエーションを提供し、顧客に選ばせることも有効なアプローチと言えます。アパレルショップで、ハンガーに幾つかのカラーバリエーションが吊るされている(演出されている)とき、それは顧客にとって選択肢を意味し、自らの感性に従って選択する自由を意味します。一方でマネキンの数には限りがあるため、プロのコーディネイターや服飾デザイナーが「どのように着こなすべきか」、または「どのように着こなして欲しいか」という観点から代表的なコーディネイトを演出することになります。

このとき、前述した二つのアプローチを併用しているということになります。オンラインストアであればこのマネキン上でのシミュレーションを自身で行うことも可能であり、おそらく近い将来には過去に自分が購入した商品に対するコーディネイト提案もされることになるでしょう。

感性そのものに訴える手法/アプローチのもう 1つは、テストドライブです。顧客に限りなく現実に近い、もしくは現実の体験をしてもらうことによって、直接的に五感に訴える方法です。自動車の試乗、飲食物の試飲/試食、CDショップの試聴コーナー、化粧品のサンプル提供、ブロードバンドサービスの無料お試し期間等は、購買後のエクスペリエンスそのもの、もしくはその一部を購買時のエクスペリエンスに持ち込み、顧客に体験させることによって、顧客をその気にさせることがその目的となります。

そして最後に挙げる感性に対するアプローチ例が、顧客対応そのものの巧拙です。特に人的資源を利用するチャネルにおいては、ハイタッチな顧客対応(丁寧なサービス、迅速なサービス、親身になったサービス…)を実現することが可能です。また、テクノロジーに依存するチャネルにおいては過去の顧客行動や嗜好性に基づいた対応ができれば、顧客に対して購買時に利便性を得ることが可能となります。このようなサービスを実現できれば、購買や商品選択時において良い印象を与え、ブランドイメージを強化します。そしてこのようなハイタッチな顧客対応を求め、「自分が大事にされている」ことを無意識に意識したい顧客からの、自社および自社商品選択可能性を高めることになります。