検索

フィットを探し当てる - 2


「ケース」の特定と理解

今回は、ある特定の顧客セグメントを見つけ出し、そこにどのような嗜好性が存在し、そのセグメントにはどの程度ビジネスの可能性があるか、これらのセグメントにとっての「フィット」が何かを探っていきます。顧客の一人ひとりは、ステレオタイプ的な、単一の行動パターンや嗜好性に縛られた薄っぺらい存在ではなく、時と場合によって行動パターンや嗜好性を変容させる、可変的で複雑な存在です。この「時と場合」をケースと捉え、そのケースに基づいて行動パターンや嗜好性を理解することが重要であり、これらのケースは「生活スタイル」、「生活ステージ」、「生活シーン」に大別できることを、前回までで説明してきました。もちろんこの大別だけで顧客の心理やその細かな移ろいを完全に描き出せる訳ではないですが、それでもマーケティング活動を行なうにあたっての重要な知見を与えてくれることになります。ここでご紹介する例は、百貨店やアパレル専門店を前提に「男性新社会人」という「生活ステージ」にいる顧客群を特定し、当該セグメントについて明らかにするための分析群です。

顧客セグメントの特定

最初に、「男性新社会人」という顧客セグメントを特定します。販売員が聞き出す、もしくはフレッシャーズ向けのキャンペーンやプログラムを展開すれば、そのフラグ付けによって顧客をグルーピングすることは容易となりますが、ここでは購買活動からこれらの顧客を特定することにします。この分析例ではまず、大学や大学院を卒業した/する年齢と想定される 21歳から 26歳に絞り込み、これらの顧客の中で紳士スーツという「男性新社会人」に特有の商品購入を発生させた顧客を絞り込みます。そしてさらに、それより前の段階で購入がない顧客、つまり会員カードの発行が 2005年の顧客に絞り込みます。

もしかしたら特定のスーツ属性(ネイビーのスーツ)や、他の商品(N本以上のタイ等)に絞り込むことによって絞り込みの精度は向上するかもしれませんが、ここではこのような条件を設定して合致する顧客を導き出すとご理解ください。そして、これらの顧客の来店購入回数ごとに、顧客数を表示しています。およそ 1万人の顧客がこのような条件に合致する顧客、つまり「男性新社会人」としてリストアップされたことになります。この中から、一見と想定される、来店購入が 1回のみの顧客を除き、2回以上来店頂いた顧客を「男性新社会人」セグメントとして定義し、このセグメントに対する分析を進めていくことにします。

支出許容度の分析

この分析では、認識されたセグメントの市場規模、そして顧客 1人当たりの支出許容額を顧客年間あたりと、来店あたりで見ています。ここから当該セグメントがどの程度のお金をお財布に入れ、何回程度来店しているかを理解しており、その総和としてどの程度のビジネスの可能性があるのかを理解しています。分析からは、2ヶ月に 1回来店し、1回の来店において 7万円以上支出することは難しいことが読み取れます。もちろんこれは最大限界値であり、一般には半年に 1回程度の来店で、来店 1回あたりは 5万円程度が許容範囲と読み取れます。もちろん、他のお店で買物している可能性もあり、お財布の限界がこの分析にて正確に読み取れるわけではありませんが、少なくともおおよそのイメージは掴めます。「フィット」という観点からは、この許容度を超えるような商品購入を促しても新社会人の懐具合からは無理があり、そのような追加的なマーケティングメッセージは無に帰すことになります。そして同時に、このような支出許容額にはるかに満たないのであれば、購買可能性のある顧客であるということが言えます(当然ながら自店の品揃えに不満があったり、他の競合店にウォレットシェアの多くを握られていたりする危険性もあり、これが購買可能性をスポイルしているということも考えられます)。

着数許容度の分析

財布という観点での許容度が理解できたなら、次にその許容度の中で各商品をどの程度ずつ購入しているかを理解していきます。縦軸には商品をカテゴリーレベルで捉え、販売数量を見ています。また当該セグメントの顧客数を置いて、この 2つの指標を用いて購入着数の平均値を理解しています。そしてさらに、これら 5,598名の中で、スーツを 1番多く買った顧客の最大購入着数、パンツを 1番多く買った顧客の最大購入着数…といった形で[着数最大値]という指標を用意しています。

多少の想像力を巡らせれば、普通の 20代男性がコートを 10着も買うはずがないことはお分かりいただけるはずです。現実的には、クリーニングに出している間着まわすとして 2着程度が妥当な着数でしょう。しかしながら実際何着買うものなのかという点を理解するためには、実績データを見なければなりません。

また、2着を妥当な着数であるとしてさらに顧客毎の着数分布を調べれば、0着の顧客、1着の顧客、2着の顧客…がそれぞれどの程度の割合で分布しているかが分かり、許容可能な範囲で最大限の販売を達成できているのか、それともまだアプローチの余地があるのかも理解できます。例えばコートの着数が 0 の顧客に対しては、コートの購入を促して意味のある結果を期待できるかもしれませんが、既に 2着購入している顧客には、違う目的性(例えばプライベートで着用する、カジュアルラインのコート等)に訴えない限りにおいて、良い結果を期待することは難しいでしょう。分析例7 が財布レベルでの「フィット」を探り当てているのに対して、ここでは商品レベルでの「フィット」を探り当てんとしています。もちろんこの場合も、ここで理解された着数が、そのままクローゼットに存在する着数合計ではないことは理解されなければなりません。

他の競合店で購入したコートが既に 2着あれば、これ以上コートに反応しない可能性も充分考えられます。

商品間の関連性分析

1回の買物で、どのような組み合わせで商品を購入したかを理解するための分析として、関連購買分析という手法があります。スーパーマーケット等にある買い物カゴ、つまりバスケットを購買単位として捉え、このバスケットの中にどのような商品が一緒に放り込まれたかを見るため、バスケット分析とも言われています。データとしてみた場合、この購買単位はレシートデータとして捉えることが可能であり、同じレシート番号を持つ購買取引データから、同じバスケットに含まれた商品を理解することが可能です。また、同じ会員番号でバスケット、つまりレシートを括ることによって、複数回の買上や、一回の来店における買い廻りも単一の「仮想バスケット」として括ることが可能となります。

ここでは、当該セグメントが発生させたバスケットの中からまず、ネイビーのスーツを購入したバスケットだけに絞り込み、このバスケットに一緒に含まれた商品は何かを理解しています。[対象商品バスケット]は、当該セグメントが発生させた、ネイビーのスーツが含まれるバスケットです(通常、スーツは買い物カゴに入れませんが、便宜上このような表現にします)。そしてこのバスケットの中に含まれた他の商品を縦軸にリストアップしています。そして、[関連商品バスケット]として、分母となる 10,432 のバスケットに対して、どの程度のボリュームで関連購買が発生したかを見ています。例えば[ボタンダウンドレスシャツ]の[カラー133]、[ブランドA]は、2,543 のバスケットに一緒に含まれていたことを示しています。この 2つの指標をそれぞれ分子、分母にとることによって、[併買率]という指標値を導き出しています。この併買率が高ければ、指定したネイビーのスーツに対する併買度合いが高いことを意味し、一緒に買われる可能性が高いことを意味します。

ここでは、ある商品属性、商品カテゴリーに対する商品の関連性を見ていますが、レベルを変えたり、対象とする商品を変えたりすることも必要です。ここでの目的は支持されているコーディネイトを理解することであり、この理解の結果をマネキンや販売員の販売活動、さらに長期的には商品開発や仕入に活用することにあります。従って、例えば「ブランドA の商品と併買傾向があるブランドは? (レベルを変える)」、「グレーのスーツに合わせて購入されるシャツの色目は? (対象とする商品を変える)」といった質問に対する回答をもたらし、このセグメントがどのような嗜好性を持っているかを理解することがその狙いです。

セグメントの嗜好性分析

このセグメントに対する最後の分析は、ブランド排他性を理解するための分析です。縦軸に各ファッションブランドを置き、横軸には[購入顧客数]、[排他購入顧客数]、[セグメント合計]、[排他性]、[購入率]、[排他性指標]といった指標値群を置いて分析を行なっています。[購入顧客数]は、縦軸に指定したブランドを購入した顧客の数を示しています。[排他購入顧客数]は、縦軸に指定したブランドのみを購入した顧客、つまり他のブランドは購入していない顧客を示しています。そしてこのセグメントの顧客数合計を示したのが[セグメント合計]です。[排他性]は、[排他購入顧客数]/[購入顧客数]にて求められ、縦軸に指定したブランドのみを購入する顧客の、当該ブランド購入顧客における割合を示しています。従って、この値が高ければこのブランドは高い忠誠心を持つ顧客を多く抱えているということになります。また、[購入顧客数]/[セグメント合計]で導き出されるのが[購入率]です。これは単純に当該セグメントの何%が縦軸に指定したブランドを購入したかを意味し、この値が高ければ支持率の高い、メジャーブランドであることを意味しています。

ここから、特に排他的な購入をしている顧客に関しては、トライアル的な意味合いは別にして、他のブランドを案内しても余り良い効果を得られないことが想定されます。このブランドだけで充分なコーディネイションが可能で、完結的な購入を実現しているブランドなのかもしれません。一方購入率が高いにも関わらず、排他性が低いブランドは、他のブランドとのクロスコーディネイトの可能性が高く、平たく言えば他のブランドとも合わせやすいことが想定されます。それぞれの顧客のメインブランドに対して、何らか他のブランドをクロス案内するのであれば、このブランドを案内することが良い結果を生むと想定できますし、店内における陳列やブランド配置においても、この理解の結果を活用して、顧客にとってのコーディネイトの幅を広げると共に、自店にとっての買上点数増加の可能性を広げることにつながります。

この分析は、ブランドという観点で見たときの顧客の購買許容幅がどこまでなのかを理解しています。特定ブランドしか買わない顧客にとって、それ以外のブランドを案内することは「フィット」ではありません。逆に多様なブランドをコーディネイトする嗜好を持った顧客に対して、単一ブランドのみで勝負することも「フィット」とは言えません。当該セグメントが全体として持っている「フィット」の幅と共に、それぞれの顧客が持っている「フィット」の幅を理解することによって、過不足のない案内や販売が可能となり、それはすなわち、その顧客が持っている生活ステージにおいて、本当に必要なニーズを満たしてあげることにつながるのです。


eventbanner.png