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エンタープライズ・データウェアハウスの価値と活用


エンタープライズ・データウェアハウスの活用形態

今や多くの企業で意思決定支援環境としてデータウェアハウスが導入され、活用されています。ここでは様々な活用形態を概観し、念頭に置くべき事項を整理します。

業務における意思決定の場面

企業においてデータウェアハウスを利用した意思決定の場面では、考慮すべきいくつかの側面があります。

1. 意思決定を行う人の組織階層という側面 企業の組織階層を考えるとき、経営者層、中間層、現場層と 3階層で分類する方法が一般的ですが、意思決定に関しては経営者層、企画・マーケティング層、各部門長、現場担当者という 4つに分類することが適切です。企画・マーケティング層を独立させる理由は、イベントやキャンペーンといった活動の一環として、データマイニングやシミュレーション、あるいはセグメンテーションといった高度な情報を活用する部署であり、意思決定業務で独自の役割を担うためです。

2. 対象領域の広さという側面 適用領域の広さという観点では、マーケットの動向といった広範囲に領域を捉えるマクロな視点と、目前の顧客への応対といった特徴的な事象を捉えるミクロな視点に分けられます。1. で述べた組織階層の側面との関係では、前者が経営者層に近く、後者が現場に近くなります。

3. 時間という側面 時間という側面では 2つの時間軸を念頭に置きます。1つは情報を得るための分析業務に必要な時間であり、もう1つは分析後の活動を通じてビジネス効果を得るまでの時間です。両者は、現場担当者が意思決定を行う場合に殆ど同じ意味になりますが、イベントやキャンペーンといった活動で必要になる期間は前者が長くても数時間なのに対し、後者は数日から数ヶ月になります。経営者層による中・長期的経営計画の策定やその検証といった活動に至っては、前者の数分に対し後者は短くとも半年、長ければ数年必要になります。業務に必要な時間が事象の分析作業までを指すのか、活動を通じて課題を解決するまでを指すのかを明確にしなければなりません。

4. 業務プロセスという側面 企画、仕入、生産、物流、販売、サポートといった具体的な業務プロセス毎に意思決定プロセスが考えられます。特にデータウェハウスのスモール・スタート時には、適用領域を狭くして効果を受けながら発展させる手法が採用されます。例えば、販売支援や物流支援といった狭い領域で活用が始まります。

5. 主要な業務改革領域という側面 顧客管理(CRM)や財務管理、サプライチェーン管理、設備・資産管理といった、組織の枠を超えた業務領域も考慮すべき側面です。4. で述べた業務プロセス内での効率化が一段落すると、その発展形として業務横断的な最適化の要望が強くなります。このような環境では、それまでの業務単体での意思決定や最適化の考え方を変えなければなりません。販売担当者が当初、売上げを最大化させる活動に専念していたのに対し、在庫や生産状況に応じた売上げ増加を目指すことや、資材の発注部署に販売機会の増加を伝える、などがその代表です。適応領域を拡げる過程で考え方も変えなければならず、関係者の柔軟な対応が求められます。 一般的に、企業で意思決定の方法が成熟してくると、最適化を狙う対象に対して多くの組織がそれぞれの役割を担います。顧客管理業務を例に取ると、販売部門での顧客管理とコールセンターでの顧客管理では、その役割や業務内容が異なります。一方で、企業として一貫した対応を顧客に印象付けるためには、企業全体で整合性を確保して活動していくことが重要です。関係部門で対象となる顧客の情報や動向を共有し、互いの活動を捕捉・発展し合えるような環境が望まれます。

活用形態による分類

以上のような側面を念頭において、データウェアハウスを利用した実際の意思決定の代表的な活用形態を分類してみます。

1. 定型、半定型レポート出力 先ず、最も簡単な定型や一部可変のパラメータを入力させる半定型のレポート出力業務があります。簡単に実行可能で応答もすぐ返ってきます。現場担当者が目前の顧客情報を参照する場合が代表的な利用形態です。

2. 多次元分析 半定型レポートの応用が多次元分析です。地域構成や商品カテゴリー体系、販売組織体制など、セグメント情報をパラメータの軸にし、計数などの情報を把握・分析する業務です。その準備として、分類軸を構成するセグメント情報の定義が必要ですが、直前の分析結果に応じて利用者が軸を動的に変更でき、直感的な操作が可能なので、多くの利用者に使われています。汎用性があるため多くの定型、半定型レポートもこの環境から作られています。一方、予め分類軸を固定化させるため、データの見方に限界があります。例えば、販売員と販売商品で売上げへの相関性を比較するような高度な使い方には向いていません。

3. ダッシュボード 更に高度な使い方として、ダッシュボードという利用形態があります。これは管理指標としてKPI(Key Performance Indicator)を予めグラフ形式で指定し、利用者が参照する端末の情報を自動的に更新する仕組みです。利用者による操作が簡素化されながらも最新の情報にアクセスが可能となるため、経営者層や部門長といった業績指標を見る立場にある人に最適です。しきい値としてのパラメータを埋め込み、利用者に対して適宜、警告や付加情報を伝えるといった使い方もされています。

次に、複雑で高度な情報利用の形態を見てみます。最近では複雑な問題に対して、一定の分析パターンを利用する方法が盛んに行われています。

4. データマイニング 高度な利用形態の典型としてデータマイニングの手法があります。これまでデータマイニングといえば、膨大なデータの中から自動的に知識を導き出す方法とされてきました。最近では分析手法のパターン化が進み、具体的なビジネスのテーマを最初に絞り込み、そこにフォーカスする分析手法が主流になりつつあります。代表的には、離反顧客の予想、バンドル商品を買う傾向が高い顧客の想定などです。こうしたマイニングの手法では、統計数値を元にした数式の組み立てがよく行われています。例えば、スコアリングは組み立てられた数式に調査対象の属性値を設定して傾向を数値化する手法です。結果が数値化されるこの手法は、他の分析や意思決定に利用しやすい特長を備えています。

5. シミュレーション もう1つの高度な利用形態の典型がシミュレーションです。これは電話会社など競争が激しいサービスの価格決定プロセスや、組織変更による業績への影響分析など、様々な場面で利用されてきました。携帯電話のサービスを例にとると、利用者は定額料金に代表される支払い額が利用頻度に関係しない契約を好みます。一方、携帯電話事業は競争の促進や技術の発展と共に料金の低価格化が進むので、事業者は確実な収益が見込め、かつ競合会社の契約料金に見劣りしないサービスを開発する必要があります。このときにデータウェアハウスが威力を発揮します。既存顧客の電話利用履歴を調べることによって、価格競争力と収益性を両立しうる料金テーブルを探すことが出来るのです。

6. 非定型検索(分析) 選択する指標や項目、あるいは条件の指定方法や数値の集計方法を、利用者の自由な判断に任せる使い方が非定型検索です。自由度の高い環境が提供されるため、応用範囲が広く、データを参照するだけの比較的簡単な分析業務のみならず、データの散らばり具合を把握するような高度な分析業務でも利用されています。

さて、利用環境に応じた様々な意思決定の取り組みを説明してきましたが、要点となるのは利用者の利便性と時間軸を尺度とした効果の出しやすさです。コールセンターで目前の顧客への応対に多次元分析やデータマイニングの手法を利用するのは無理があります。また、市場動向の調査業務に定型レポートでは役不足です。実業務で利用者が使うのは端末であり BIツールであり、利用パターンにかなったツールや環境を適宜揃えることが肝心です。

最後に、企業活動における情報活用の場面を図1 に示します。

エンタープライズ・データウェアハウスの価値

データウェアハウスから価値を享受する段階は、次のような発展経過をたどります。具体的な価値は各段階で別の意味を持つようになり、捉え方も異なります。

  1. 個別業務の最適化の段階

  2. 業部門内における業務横断的な最適化の段階

  3. 階層横断的な最適化の段階

  4. 全社で行う業務横断的かつ階層横断的な最適化の段階

まとめると、個別最適の形態が発展し適用領域を拡大させる過程で情報活用の形態が高度化、多様化、複雑化し、ITガバナンスを通じて一定のガイドラインに沿いながら全体最適に進む、という流れになります。

個別最適の価値

データウェアハウスは、当初のスモール・スタート段階から価値を享受する必要があります。このときの価値は、単に販売機会が増えることで売上げが増加するといった比較的簡単な価値を指します。個別最適の段階では効果を明瞭に受けやすい反面、価値の獲得期間は短くなるのが普通です。

業務横断的な最適化の価値

データウェアハウスの活用領域が拡がると、業務横断的な効率化を目指す段階に移行します。バリューチェーンを構成する一連の業務プロセスを通じて価値を追求する段階です。例えば、業務プロセスを超えて在庫の最適化を計ることで、機会損失と管理コストを同時に抑えるという最適化が実現します。このとき、在庫という概念はバリューチェーンを通じて統一・共有されていなければなりません。つまり、コード体系やデータの見方に対する標準化は必ず必要になります。価値は、バリューチェーン全体における在庫保有率が 30%削減されるといった、業務横断的な数値で計測することになります。

階層横断的な最適化の価値

データウェアハウスが事業部門の枠を超えて発展すると、調整作業が必要になります。例えば、トップマネジメントによる戦略や計画と、現場の実践的、戦術的オペレーションの摺り合わせが欠かせません。多くの施策を同時に実施する際には、企業戦略との整合性を加味して優先順位を付ける工夫も必要です。経営者層は戦略立案の過程で業績評価指標としての KPI を定義してモニタリングします。事業部門の活動は事業戦略と KPI への関与の深さで評価され、価値は業績評価指標の KPI値そのものになります。

業務横断的かつ階層横断的な最適化の価値

データウェアハウスを利用して業務横断的かつ階層横断的な最適化を狙うためには、考慮すべき多くのポイントがあります。事業戦略から KPI にいたる業績指標を定義してモニタリングを行うことは述べた通りですが、先行指標としての KPI を定義、モニタリングすることは更に重要です。先行指標とは、計画していた業績にブレが生じる場合に前もって予兆が現れる指標のことです。例えば市場に新商品を投入するとき、初期の売れ行きパターンは事業展開を予想するための重要な先行指標です。また、バリューチェーンを構成するプロセスに問題が発生し、下工程に部品や商品が供給されない事態に至って販売機会が失われる状況を想像すれば、業務プロセスにおける入力実績値と出力実績値は先行指標として理解できます。

大企業では設備投資をしながら事業の拡大を図りますが、計画予算の消化状況も先行指標としての意味を持ちます。企業戦略や事業における活動の因果関係を見極め、業績との関連性を紐解いて整理する作業が重要な意味を持つことになります。全体最適を実現するデータウェアハウスは、無数のビジネス価値を生み出す、価値の源泉として機能します。