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エンタープライズ・データウェアハウスを成功に導くKSF-1


データウェアハウスは、ビジネス遂行の過程で発生するデータを明細レベルで集約・統合することで意思決定環境を構成し、企業戦略の具体化に寄与するものです。意思決定の過程には多くの成功要因があります。今回はデータウェアハウスを、階層を構成する各要素に分解し、紐解くことで、それぞれの要素が上位の階層を支えている仕組みを解説します。

エンタープライズ・データウェアハウスの構成要素

データウェアハウスを効果的に導入し発展させる成功要因をわかりやすく解説するために、全体を上位層から下位層まで、企業戦略層と 5つの構成要素としての 1+5階層に分け、各構成要素の役割と特長を明らかにします。各層の構成要素には独自性があり、上位の構成要素を有効に支援する重要な成功要因となります。

0. 企業戦略(最上位層) 1. ビジネス改善課題 2. 意思決定アプリケーション 3. 論理データモデル/マスターデータ管理 4. DBMS 5. システム/ストレージ(最下位層)

(図は、各要素が全て重要であることをご理解いただくために、上位層から下位層までを横に展開しています)

0. 企業戦略(最上位層) 今や殆どの企業において、ビジネスのロードマップとなりうる中・長期的な戦略構想は欠かせないものになっています。企業戦略(以下、戦略)は、ビジョンを実現するための経営計画の策定過程で、経営層によって独自に示されます。一般に戦略の骨子本文は少なめで関係者にわかりやすく定義されています。

戦略層はデータウェアハウスの構成要素ではありませんが、下位のビジネス改善課題が、戦略の具体化に貢献する様子を示すために最上位層に入れてあります。

1. ビジネス改善課題 ビジネス改善課題は、企業戦略を具体化する役割を担います。これは連載「第3回:エンタープライズ・データウェアハウスの価値と活用」で示した、業務における意思決定の場面「主要な業務改革領域という側面」で解説しました。

戦略を具体化する施策は一般に多く存在しますが、要素間に働くシナジー効果や、実現の可能性、費用対効果、所要リソースなどを念頭において、実活動に優先順位を付けるのが肝要です。要素毎に想定される期待効果を数値的に測る仕組みがあれば、戦略への貢献度を測ることができます。ビジネス改善課題は、組織横断的な業務連携活動の焦点として戦略に直接作用するため、関係する多くの社員にわかりやすいことが重要で、一覧で見えることが理想です。

一例として、Teradata が考える欧米の通信業におけるビジネス改善課題を図に示します。

2. 意思決定アプリケーション 意思決定アプリケーション(以下、アプリケーション)は、業務改革の基礎を担います。具体的には、企業活動を通じて蓄積された膨大なデータから、ビジネスを有効に導く情報を取り出す仕組みを指します。連載「第3回:エンタープライズ・データウェアハウスの価値と活用」で「活用形態による分類」として多くの利用方法を紹介しました。複数のビジネス改善課題を同時に支援するため、多くのアプリケーションを同時に稼働させる必要があります。

ここで成功要因となる重要な概念に CSF(Critical Success Factor:最重要成功要因)、BQ(Business Question)、KPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)があります。

CSF は、特定課題を解決して業務を有効に機能させる行動を起こす際に障害になっている原因を指します。具体的には、商品A を購入しそうな顧客像がわからず、有効なキャンペーンが打てない、というビジネス上の課題に対して、「商品A を購入しそうな顧客がわかること」が CSF になります。

BQ は、CSF をさらに具体化する質問事項を指します。上の例では「商品A を購入しそうな顧客は誰か」というものです。過去の購入履歴の調査などを通じて、この情報がわかれば、実際のビジネス活動に展開できます。BQ は、企業文化や戦略に擦り合せて考えると更に効果的です。例えば、1回の取引額が大きい顧客よりも、長期に渡って取引に応じてくれる顧客が大事とする文化を持つ企業であれば、「将来にわたって取引を長く続けてくれる顧客は誰か」と言い換えられます。

KPI は、ビジネス活動の結果として数値化される指標です。売上(伸び率)や利益(率)といった情報は、全ての企業で共通する KPI です。また、企業では様々な活動を評価・管理するために独自の KPI を用いています。

また、アプリケーションを有効に機能させるためには、PDCAサイクルや仮説検証プロセスといったクローズドループを形成することも重要です。競争環境が激しく変化する昨今、単発的・離散的な活動で成果を享受し続けることは困難です。今やあらゆる業種から業界の垣根を越えて競争相手が現れる時代です。今まで成果を挙げていた施策も、競争環境に合わせて逐次変えていかなければなりません。

さらに、情報提供の適宜性も忘れてならない成功要因です。ユーザーが使いたいと思った瞬間に必要とする情報を容易に得られることが理想です。

3. 論理データモデル/マスターデータ管理 論理データモデル(LDM)/マスターデータ管理は、業務における情報要素の関係を整理する役割を担います。多くの企業においてデータモデルやマスターデータ管理は重要な概念ですが、スモール・スタート時から完全なデータモデルやマスターデータ管理を実現することは困難です。サブジェクト数やデータ項目は適応領域を広げる過程で増やす方法が現実的です。

データウェアハウスにおいて、コード体系やデータの見方を統一・標準化することは、部門横断的な業務を支える上で最も重要な事項です。データモデリング段階で詳細データを扱うことにより、業務を大枠で捉える鳥瞰性と詳細に捉える原子性が両立します。また、多くのアプリケーションを同時に稼働させるためにはアプリケーション中立という特長が重要で、それは正規化されたデータモデルで可能になります。

後述しますが、履歴保持とサブジェクト指向という性質は変化への適応力をもたらします。

4. DBMS DBMS は、データを蓄積する役割を担います。データウェアハウスにおける RDBMS は、単にデータを保存・管理するだけでなく、上位の LDM やアプリケーションを有効に機能させるために、多くの機能を必要とします。

一般に、データウェアハウスは適用領域を広げる過程で、データの種類や量、ユーザー数が増えていきます。従って、単一データベースとしての拡張性は重要な成功要因です。

また、利用形態が成熟すると、定型検索やデータマイニングなど、負荷の異なるアプリケーションを同時並行して処理しなければなりません。このとき、重い処理は軽い処理の進行を阻害しないような、ワークロード管理機能が重要になります。第一線の現場業務でデータウェアハウスを利用するには可用性も重要です。

5. システム/ストレージ(最下位層) システム/ストレージは、物理的なデータの保管庫としての役割を担います。価格性能比が高く将来的に性能向上が見込める均一部品を、サーバー間通信技術を用いてつなげ、上位の DBMS の拡張性や可用性をサポートします。

要点

データウェアハウスの構成要素にはそれぞれの役割があり、各構成要素の特長を活かすことが最も重要です。注意したいのは、構成要素の特長を異なる階層で実現しないことです。例えば、LDM/マスターデータ管理の階層で標準化と正規化を実現しますが、意思決定アプリケーションの階層でこれを実現してはなりません。意思決定アプリケーションで標準化や正規化を実現すると、そのアプリケーションは最適化されますが、その他のアプリケーションも同様の対応が必要になり、開発負荷を増やし、ひいては業務横断的な見方を難しくします。

もう1つ念頭に置きたいのは変化への適応力です。データウェアハウスを有効に活用すると、ビジネスの手法を変えなければならない事態にしばしば直面します。データウェアハウス展開の難しさの 1つは、課題解決の過程でデータウェアハウスの構成要素をも変える必要があるということです。少なくともデータウェアハウスの構想段階で、ビジネス諸要素の変更に柔軟な対応が可能かを検討する必要があります。

重要なポイントは、LDM/マスターデータ管理層におけるサブジェクト指向という概念と、履歴管理という手法です。典型的な例は、組織構造の変更や商品体系の変更の際に、それまでの情報の見方を保ったまま、新しい情報の見方も欲しい、といった場合です。例えば、組織に所属する個人毎の成績(販売担当地区における売上げなど)を見ているとします。新しい組織に変わった際には、新しい組織の枠組みで個人毎の成績を見たくなりますが、一方で特定個人の成績が、組織が変わった前後でどのように推移したかも見たくなります。(つまり、以前の情報の見方も必要になります。)

ここで、履歴管理とサブジェクト指向という考え方が重要な意味を持ちます。サブジェクト指向でデータをまとめることは、個別業務毎にデータを定義するのでなく、全ての業務にわたって同種のデータをまとめるということです。この管理方法とデータの履歴管理手法を組み合わせてデータモデルを構築すると、変更への適応力に富んだデータウェアハウスを構築することができるのです。


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