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データ分析がもたらす新たなる“ものづくり”への貢献と課題

ビジネスコンサルティング事業部

マネージャービジネスコンサルタント

矢野 寛祥 著


製造業では、もの作りそのものがビジネスに直結します。その観点では、ビジネスに直結するもの作りの根幹であるR&Dおよび製造は重要な工程と言えます。特に、R&Dでは先進的な製品の開発に向けて日々、新しい発想の追究と効率性を求めることとなります。開発者が研究開発活動に集中ができ、より先進的な製品開発に従事し、しいてはビジネスの拡大につながるというサイクルができるのです。


最近、“ものづくり”の現場ではこれまであまり聞かれなかったデータ分析といった言葉がよく聞かれるようになりました。工場や製品の予防保全といったキーワードだけでなく、“ものづくり”の根幹となるR&Dの現場においても、何かデータを使って新しいことをしたいといった声が増えてきているようです。しかし中々活用が進んでいないといった声も同時に多く聞きます。なぜ、R&Dにおいてデータ活用を進めるためのポイントとは何でしょうか。


データ分析の活用を進めるためのポイント


  • データ分析への理解 “ものづくり”でデータ分析というと真先に出てくる話題が、データ分析(特にAI)を使うことで今までできなかった問題への回答が魔法の道具のようにすぐに出るのではないかという事です。確かに昨今AIを使った事例や話題を見てみると何かすごいことをしてくれそうといった気がしてしまうことは間違いないと思います。しかしデータ分析はそのような魔法のツールではないことを理解する必要があります。データ分析とは過去から蓄積されたデータを使って特徴や傾向を導き出すことが主となりますので、必然的に過去のデータが蓄積されていない全く未知なものを解くことはできないという事になります。ではデータ分析を効果的に活用しようと試みるのであれば、それは人間の思考や活動の補助を行うためのツールとして使うことが望ましいと考えられます。どういうことかと言えば、例えば人の手では処理できないほどの膨大な量のデータから人が考えられる状態までを分析を用いてスクリーニングを行う、これまで検討することが無かった範囲まで広げて特徴の抽出を行うなどが活用するにあたり効果が出やすい領域となると考えられます。


  • 工学・物理学との相違 研究開発の現場において、基本期には工学・物理学を用いた検討を過去何十年と続けてきており、数字を扱って何かの答えを出す場合は必ずと言っていいほど方程式があり、ある法則にしたがった計算結果が算出されます。しかし、データ分析は上述のような自然科学の方程式を解くのではなく、過去の蓄積されたデータから傾向や特徴を抽出することで現在の状態や将来の動きを予測したりするものとなります。つまり、確立された方程式を解くわけではないので不変性があるわけではなく、かなりの不確実性をはらんだものとなります。ところが現場のエンジニアと会話していると最も気になるのが、データ分析と工学・物理学が混同されているという点です。データ分析も今までの解析と同じように回答を出してくれると期待している人が多いようです。おそらくよく耳にする人を超えたといわれる囲碁や将棋のAI達が原因と思われますが、“ものづくり”の設計においては製品の品質・安全性を担保するにあたりあいまいさを含むデータ分析結果をそのまま受け入れるのは危険だと言えますし、物理計算ほど現実に近い値(例えば予測と実測の乖離が5%以内など)を返してくれることは困難となります。あくまで、人間では難しい量のデータから傾向や特徴を抽出、またはスクリーニングをするといったエンジニアの補助としての使い方が望ましいと考えられます。

  • データ分析環境の整備 R&Dのエンジニアの方たちと会話していると当然ですが現場での設計作業や実験作業を中心とされてきているため、データ分析も同じ延長線上で考えられているケースがほとんどです、つまり先ずは分析をしてみるという傾向が非常に強いと感じます。結果的に検証上では検討したデータ分析がうまく機能したとしても、実際の業務に適応させるためのシステム化を行おうとした場合、システム化ができずに頓挫してしまうことが往々にして発生します。原因はデータそのものがどこにあるのかわからない、個人で管理されており共有されていない、データの持ち方がバラバラでそのまま分析に使えない、データはあるけどどういった経緯でできたデータか不明、そもそも使って問題ないデータなのかも確認が必要、最終的にはデータ持っていたはずの人が辞めて(または移動)してしまってどうにもならない、といったことが要因として挙げられます。実際データ分析のお手伝いをさせていただくときもデータ分析そのものよりも必要なデータを準備することの方が時間も工数も消費するのが実情となります。これらを解決するためにはデータ分析を行うための環境が必要になります、データが適切に管理され、容易にアクセスできる仕組みを構築する必要があります。データ分析を効果的に使おうとした場合分析だけでなく、このようなインフラの整備も同じぐらい重要なポイントとなります。



データが与えるR&Dへの影響


ここまでデータ分析をどのように理解し、活用を進めるべきであるか書いてきましたが、具体的にデータを使うことで現状のR&Dへどのような影響が考えられるかを考えていきたいと思います。データ分析をこれまでの物理計算のようには使わない方が良いと書いていますので、どうしたらいいのかという疑問が生まれているかと思います。基本的にR&Dにおいては2つの視点での活用が考えられます。まずはプロセスの効率化です、R&Dにおいては法規的、性能的、品質的な側面で開発項目が加速度的に増えております。そのような状況下で期日通りに全要件を満たした開発を行うためにはこれまでのプロセスでは間に合わなくなっており、そこにデータ分析を用いたプロセスの加速が効果を発揮します。簡単に説明すると、何百・何千もある要素から人が扱える何十程度までデータ分析を用いて抽出するといった使い方が考えられます。次に考えられえるのがプロダクトイノベーションへの貢献です。これまで人の能力では処理しきれなかった量の情報を処理することがデータ分析によって可能となりますので、既存の開発手法よりもさらに広い観点から検討を進めることができます。例えば、CAEや実験結果にデータ分析を組み合わせることで新たなインサイトの発見へとつながることが期待できます。


まとめ


データ分析を活用しようという議論が徐々に広がってきていますが、R&Dでデータ分析活用について気を付けなければいけない点が大きく3点あります。データ分析は魔法の道具ではない、データ分析と工学・物理学の性質の違い、データ分析のための環境が必要であることを抑えて検討を進めないと上手く活用することが出来ず、結果思ったよりも使えない、効果が出ないとなる可能性が非常に高くなります。またこれらはそれぞれ独立しているのではなくデータ分析という家屋支える支柱のようにどれか一つが欠けていても上手く進まないものとなります。つまり、R&Dで行っていた数字の扱い方がデータ分析では大きく異なっていることを意味しており、これまでの延長線上で考えることはできません。データ分析をR&Dプロセスへ定着させるためにはただ使うのではなく、プロセス全体を見据えた適合が非常に大事なのです。特に、最後のデータ分析のための環境について分析をとにかく先に行い環境を後回しにするケースが非常に多いと感じます。そうなると結局最後には本格的に運用しようとしたときにシステムがないため分析ができない、データがそろわない、適当なシステムにしてしまい規模に耐えられないといった問題が生じてしまうため、最も慎重に検討しなければいけないポイントです。


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