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データ活用の定義と推進 - ICTを活用した業務改革と組織化 -|理想科学工業株式会社


【Teradata Universe Tokyo 2018イベントレポート】

データ活用の定義と推進 - ICTを活用した業務改革と組織化 -

理想科学工業株式会社 コーポレート本部 情報システム部 庄司 朋子 氏

Teradata Universe Tokyo 2018は「ビジネスに変革を起こすデータとアナリティクス」をテーマに開催され、12社のアナリティクス先進企業が自社の取り組みを紹介し、盛況のうちに終了した。

理想科学工業は、比較的早い時期からICTを活用した業務改革への意識が高く、様々な課題に直面しつつもその取り組みで成果を上げてきた。そして2017年、分析プロジェクト「RABBIT」を立ち上げ、データ分析から得られたインサイトを活用して全社的なビジネスプロセス管理を向上させることに成功している。

理想科学工業を取り巻く厳しい経営環境

理想科学工業は、業務用高速カラープリンターのオルフィスとデジタル印刷機リソグラフを主力商品とし、これらの関連機器や消耗品を販売するサプライビジネスが収益の中心となっている。どちらも有名な製品だが、同社を取り巻く経営環境は年々厳しくなってきていると庄司氏は危機感を抱く。

まず、デジタル化やペーパーレス化の進展に伴い、プリンターや印刷機の需要そのものが減っている。またリソグラフは学校需要が大きいため、少子化の影響を大きく受ける。

働き方改革によるリモートワーク推進も、オフィスのプリンター需要の減少につながっている。

さらには、これまで個人向けプリンターを販売していた大手メーカーが法人向け市場に参入し、事務機器業界全体で競争が激化しているのだ。

このように売上面では、新規ビジネスモデルを創出する必要に迫られているのである。

同時にコスト削減も進めていかなければならない。それにはプロセス見直しによる業務効率化や、オペレーションの見直しといった抜本的な対策が必要とされる。

ICTを活用できている実感がなかった

理想科学工業では、1996年にTeradataのデータウェアハウスを導入し、既に4回の更改を実施している。データはかなり蓄積されていて、現場でのBIツール活用も普及しており、可視化のためのレポートも現場のユーザーが自ら作成している。

「情報システム部に依頼することなく、自主的にデータを取得して分析することが『文化』として根付いている証拠。だが、ICTを『活用』しているという実感がなかった」と庄司氏は振り返る。

それには大きく3つの理由があると庄司氏は言う。

1)ユーザーが最新テクノロジーを知らないこと。先進企業での活用事例を知らないため、現状のままで満足してしまうのだ。

2)過去データを分析する文化はあるが、そこからインサイトを得て、業務の改善・改革につなげていこうとする文化がないこと。分析して終わりではなく、成果につながってこそICTを活用していると言えるのではないか。

3)ICT活用の主役は業務部門だという意識が足りないこと。システム導入は、業務部門と情報システム部門が一体となって進めていく必要があるが、実際には業務の内容をあまり共有することなく、システムについてはお任せという姿勢がみられる。

ICTをフル活用するためには、これら3つを解決しなければならないと庄司氏は考えた。

理想科学工業が目指したICT活用とは?

ICTの全社的な活用を推進するために、庄司氏は2014年から独自に調査を開始した。

Teradata Universe Tokyo 2014では、米NCR社と個別ミーティングを実施、IoTを活用した故障予測から予防保守についてレクチャーを受けた。

2015年には、故障予測のPoCを実施し、分析結果に対する好印象を得、本稼働への気運も高まった。

しかし業務改革プロジェクトは情報システム部主導で行うものではないと庄司氏は考え、2016年2月、自から担当役員にICTを活用した業務改革案を提出することにした。

その案の中には、ICT活用に関する5つの要素を盛り込んだ。

①ビジネスプロセス管理とそれを鳥瞰するビジネスパフォーマンス管理、②信頼性・網羅性向上のためのデータ補完、③分析・洞察・意思決定の能力を持つ人材の育成、④意思決定へのデータの活用、⑤これらに必要な情報系インフラ整備の5つだ。

この5つのうち実現したいことは①であり、他はそのための手段と位置づけられる。

理想科学工業が目指す2つのビジネスプロセス管理(BPM)とは?

理想科学工業のバリューチェーンは、市場調査から出荷後のアフターサービスまで8つのプロセスで構成される(下図)。ビジネスプロセス管理(BPM)の実現には、それぞれのプロセスが持つデータを一元化することが必須だった。

これらのプロセスは個別にシステム化されており、それぞれのプロセス内ではデータが揃っている。だが次のプロセスに引き継ぐときにはデータが要約されており、全プロセスを一貫性をもって見ようとすると、データの欠損が発生する。

データを一元化してこのような欠損を防ぐことが必要と判断した。

バリューチェーンを貫くデータの一元化ができると、経営層は「経営目標達成指標(KGI: Key Goal Indicator)」や「目標と主要結果(OKR: Objectives and Key Results)」に基づくトップダウンの意思決定が可能になる。自分たちの経営判断がどのプロセスにどう影響するのかが分かるようになるからだ。

また現場層はKGIを達成するためにどのような行動を取るべきかをシミュレーションできるようになり、改善提案が可能となる。

トップダウンのビジネスプロセス管理と、ボトムアップのビジネスパフォーマンス管理、この2つのBPMを最適に組み合わせることが、庄司氏の考えるICT活用であった。

分析プロジェクト立ち上げまでに3年要した

庄司氏が最初の提案をした2016年の段階では、具体的な施策が見えないことを理由に予算獲得には至らなかった。

特に優先順位のつけ方が難しかった。

現場ニーズを調査すれば、たくさんの要望が出てくる。それらを全て取り入れることは不可能だ。「声の大きい部門」の要望から実現されていく恐れもある。

会社全体の将来像を描き、個別最適ではなく全体最適を達成するためのロードマップを作成する必要があった。

そのロードマップに沿いながら、必要な要員を招集する旗振り役も必要になる。一方で分析能力の高い人材を育成することも必要だ。

庄司氏は必要な準備を重ねながら、ICT活用の重要性を訴求し続けた。

そして2017年の第2四半期にようやく経営陣の理解を得て、分析プロジェクト実現に向けたが動きが加速した。

Teradata Universe Tokyoで米NCR社のレクチャーを受けてから3年の月日が経っていた。

「業務改革プロジェクトは、本部スタッフの努力だけでは動き始めない。経営層の中から行動力・影響力のある理解者を見つけだし、賛同を得ることが進めるための鍵」と庄司氏は振り返る。

分析プロジェクトで成功事例を作る

2017年10月から、初めての分析プロジェクト「RABBIT」(図)が満を持して開始された。

プロジェクトの目的は、①修理ベストプラクティスの確立、②顧客離反検知、③タイムリーな活動や予兆保全を可能にするコミュニケーションレポートの作成の3つだ。

客先に納入した機械から上がってくるIoTデータを日本にあるサーバにいったん集約し、その後Teradataサーバに必要なデータを集積する。フィールドエンジニアはBIツールのMATRIXでTeradataサーバ上のデータを分析し、レポートを取得する。

TeradataサーバはTeradata Asterのデータ分析サーバと同期しており、開発スタッフやベテランエンジニアはApp Centerのビジュアライゼーションで、Teradata Asterの分析結果から様々なインサイトを得る。

Teradata Asterの様々な分析関数の中には、形態素解析という自然言語処理を可能にする関数や、機械学習を可能にする関数が含まれており、これらはベテランエンジニアがレアケースをフリーワード検索する等の業務で大いに役立った。

各種レポートは分かりやすさに重点をおいて設計した。例えば離反顧客検知では、すぐに訪問して対応すべき顧客が濃い赤で示される。あるいは営業が顧客に提案書を出す必要がある場合には、30日以内なら緑、31日以上60日以内なら黄色、61日以上経過していたら赤で表示される。

またApp Centerを利用した分析結果のビジュアライゼーションでは、例えばエラーの発生順序やそのときのユーザー操作との関連が分かるようになっており、パーツ設計やエラーメッセージの改善に役立っている。

今後の課題

このように数々の効果が得られたRABBITプロジェクトだったが、今後の課題や反省点も認識されている。

運用面では、RABBITプロジェクトだけでも500弱のジョブ数があり、処理フローが煩雑になる。今後分析システムが増えていくに際して、ジョブ管理をどうしていくかが課題だ。Teradataサーバに集積されたIoTデータも著しく増加した。今後の増加に耐えられるインフラ整備が必要となった。

自然言語処理については辞書作りが極めて大変だったが、今後利用価値が高まっていくことが予測されると言う。

気づきもあった。BPMとアジャイル開発の親和性が高いこと、およびビジネスサイドが主役であることの意識付けが大切であることが改めて分かった。

今後は「AIの民主化」を実現すべく、分析の作法マニュアルを作成し、ビジネスサイド主体で分析が進められるよう教育を実施していく予定だ。テラデータは、スキルトランスファーを支援している。

「今回、まだ始まったばかりの分析プロジェクトをこの場で紹介した理由は、今後様々な分野で他社との協業が必要になると思っているから。支援のオファーやアドバイスを是非ともお願いしたい」と述べて、庄司氏はセッションを締めくくった。